デジタルマーケティングをリードする黒田亮二氏に、UI/UXを通して日本文化の未来を切り開くヒントを聞く
― 現在黒田様は国内で最前線のマーケティング事業を担われております。
現在どのようなことを携われておりますか?
マーケティングについて黒田様が重要視されている考え、期待できる分野を教えてください
A:
現在携わっているのは、企業のマーケティング支援とUI/UXの支援を行っています。
UI/UXという言葉は聞きなれないかもしれませんので、少し解説します。
UIはユーザーインターフェースを指します。お客様と企業をつなぐ部分です。
ホームページではお客さまから見える部分がUIです。
UXはユーザーエクスペリエンスを指します。お客様の体験そのものなので、
お客様ご自身の体験を通した感情になります。纏めてUI/UXと語られることが多くあります。
なぜならUX(お客様の体験)はUIを通してでしか判断できないからです。
つまりお客様が直接確認できるUIはUXの入口と言えます。
UI/UXは先行して海外で一般化されており、現在日本でも非常に重要視されています。
マーケティングもUI/UXもお客様のお考えや行動をお客様の立場にたって考え抜き、
その製品やサービスをどうすればお客様に知っていただき、触れて頂き、
そして良い体験をして頂けるかをデザインすることです。
そしてそのデザインを多くの人に適応して事業貢献していくことです。
しかし、多くの企業はマーケティングやUI/UXの考えを持っていないケースが多くあります。
なぜなら多くの企業はそのような人材を抱えていないからです。私はそのような企業の支援を行っています。
私はマーケティングやUI/UXの考えは、企業だけに関わらず、国や地方自治体にも必要だと考えています。
全ての事業はお客様がお金を投じることで成立します。
つまり、お客様に価値を感じて頂かないと事業は成立しません。
マーケティングもUI/UXも、お客様視点で考え、お客様に価値を感じてもらうための
必要不可欠なものなのです。
■文化の発信について
― 日本の文化や観光PR&マーケティングは、他の分野より遅れているといいます。
現状について、どのように思われますか?
A:
正直、弱くなったかどうかはわかりません。ただ私自身が目にする機会はほぼありません。
日本人であり日本で暮らしている私自身が日本の文化や観光地について詳しくないのです。
世の中はデジタル化が急速に進み、生活者は自ら情報を獲りに行く機会が圧倒的に増えています。
今まで自然と目に入ってきてたような偶然の出会いが減っていき、
自分の好みのものを自ら探すことに夢中です。
また、デジタル上でのマッチング精度が向上することにより、
自分の好みのものだけが目に入るようになってきています。
新型コロナウイルス禍で外出の機会が減り、デジタル化が加速したことで、ますます増加傾向にあると思います。
デジタル化が加速したことは、つまりお客様がデジタルに対応しているということなので、
従来の「発信」のやり方ではなく、お客様のデジタル活用に寄り添って「発信」をしていかなければなりません。
お客様がデジタル活用しているのに従来の「発信」のやり方を続けていれば、
そもそもお客様が「受信」できないからです。
もしかしたら時代の変化に発信力がついていっておらず、
結果弱くなったと仰っているのかもしれません。
■文化力の低下について
日本はフランスと比較すると、国や国民全体の文化に対する意識が低いと感じられます。
この状態を改善すべく、多くの人に日本の素晴らしさを知ってほしいと思っているのですが、
マーケティングの視点で必要だと思われることは、どのようなことが考えられますでしょうか?
A:
先ずは先にお話をした通り、急速に進んでいるデジタル化に対応することが急務です。
日本に住む多くの人がデジタルを使いこなしている以上、デジタルに対応してデジタルに寄り添った
体験設計が重要なのです。
多くの人に日本の素晴らしさを知ってほしいと思っているのならば、
なぜ多くの人が利用しているデジタルに適切に対応しないのでしょうか。
これは、デジタルで広告を出すということではありません。
例えば、デジタルで広告を出しましょうとか、動画をつくりましょうとか、
そのような話はよくありますし、実際にそうしている地方自治体の話を良く聞きます。
これはデジタルに対応しているのではなく、「デジタル上で出してみた」に過ぎません。
そもそも、多くの方々が少しでも興味を持ってデジタル上で検索をしていただいたときに、
どのような期待を持っていただいてるのか、そしてその期待に対して
どのような情報を提供すべきか、お客様の目線となり考え抜かなければなりません。
そして、どのような体験をしていただければお客様に喜んでいただけるのかを
考え抜かなければなりません。その結果、広告なのか動画なのかといった施策に至るべきなのです。
デジタルで情報を提供すればよい、ではないのです。
どのように情報を提供すれば、どのように感じて頂けるのか、感じて頂いた上で、
どのように情報提供すれば行動していただけるのか。
提供者の目線では、それは成し遂げられません。
なぜなら売りたい、来てほしい、体験してほしいだけが先行するからです。
お客様の目線で全てを考え抜かなければ、どれだけ素晴らしいものであっても伝わることは難しいのです。
提供者は製品やサービスに対する事前にお客様が抱く期待から、体験中の感情、そして
体験後の感情までを含めてデザインしなければなりません。
このことは、みなさまが何かを買う時のことを思い浮かべて頂ければご理解いただけると思いますが、
特に高額な製品の購入の際や、旅行・宿泊といった高額なサービス体験などは顕著に現れてきます。
みなさまも旅行サイトなどで素敵な宿を選択する前や、選択した後に事前に期待を抱きませんか?
そして体験後には部屋や料理だけではなく、その旅行サイトで得た事前期待や、宿泊中、
そして家に帰ってからの振り返りまで、その宿泊全体の体験で評価をしませんか?
つまり、単に製品やサービスの良し悪しだけではなく、
その体験全体を良いものにデザインしていく必要があるのです。
そのためには、お客様にしっかりとお伝えする必要があります。
お客様はご自身が理解できることしか体験しようがないからです。
良いものを提供すればわかってくれると思うのは傲慢です。
人間は物事を正確に理解するのに労力がかかります。お客様に理解を強いるのではなく、
提供者がしっかりとお伝えする必要があるのです。
地方には、素晴らしい観光地や素晴らしい製品、サービスがあります。
しかし、その素晴らしいものをお客様にお伝えして、
お客様に良い体験をして頂けるかを考え抜かなければならないということです。
そのお客様との対話の中でデジタルを活用して、よりよい体験をデザインしていくのです。
■黒田様の心の根幹に、文化への親しみが感じられます。
地元鳥取で培われた風土・環境・思い出があるかと存じますが、
心の風景をよろしければ教えてください。
A:
私は鳥取の米子で育ったので、当然思い入れはものすごくあります。
米子は伯耆富士と言われた大山、日本海があり、海にも山にも恵まれており、
食べ物も美味しいものばかりです。コミュニティも活発ですし、
今でも美しい風景がすぐに思い出されます。
しかし、これは東京に住むようになってから思ったことであり、
地元で住んでいたときに思ったことではありません。当たり前だと思っていたものが、
当たり前でなくなったからです。
鳥取で暮らしていた時に、もう少し視座をあげて考えることができていたら、
もしかしたら、もっと鳥取について詳しくなっていたかもしれませんし、
もっと良い思い出があったのかもしれませんね。
そういう意味でも、地方の活性化は地方自身が視座をあげて検討することも必要かもしませんね。
ちなみに、米子には「米子がいな祭」という祭りがあります。
久々に「がいな祭」と検索してみたところ、なんと第48回でして、私と同い年でびっくりしました。
ちなみに「がいな」とは「大きな」という意味の方言です(笑)。
子どもの頃から毎年楽しみにしていたお祭りで、花火がすごくて思い出が詰まっています。
毎年8月に開催していますので、是非米子に行かれた際はご参加ください。最高です。
■日本の文化・観光に携わる方々に向けて、
観光マーケティングの必要性・発展性を教えてください。
A:
文化・観光に関わらず、すべてにおいてマーケティングは必要です。
なぜなら、お客様が不在の事業はあり得ないからです。事業の価値は、すなわちお客様の価値だからです。
お客様に価値を感じていただくためには、お客様に良い体験をして頂かなければなりません。
そのためには、お客様の立場で考え抜かなければなりません。体験して評価するのはお客様なのです。
誰もが大切な人を思ったときに、大切な人の立場になって喜んでもらうために考え抜いていると思います。
先ずは同じことをしてみてはいかがでしょうか。
マーケティングは理論もフレームワークもたくさんありますが、それは他者の力を借りてよいと思います。
先ずはお客様の立場に立って考え抜いてみてください。
日本の文化・観光は素晴らしいものがたくさんあります。きっとお客様は喜んでくれますし、
それは実現可能なことなのです。
■プロフィール
黒田 亮二
経歴
システム開発のプロジェクトマネジメントなどを経て、スタートアップに参画してマーケティングに従事。
その後、システム開発会社や広告代理店でデジタルマーケティング支援・新規事業開発を行なう。
現在は開発会社でマーケティング、UI/UX、DXの支援を行っている。