日本の老舗旅館
今はなき、日本の名旅館。
約10年前、日本で10本の指に入ると言われていた奥湯河原の老舗旅館です。
経営が変わる2013年までの間は全国でも有名でした。
伝統と文化が、人によってどのように生み出され、守られ、そして変わるのか。
老舗旅館の本当の良さとは何か、そしてそこに携わる喜びと大切さとはなにかを、
ここに記します。
■本当にいい旅館、ホテルは感動がある。
老舗旅館の良さを、今までお伝えしたかったのですが、
本当にいい旅館というのは、居心地がいいのです。
ただ単に高い建物を作って、高い食材を出して、
訓練されたサービスがあって、数々の演出があるだけでは
本当にいい旅館(ホテル)とはいえないのです。
そして、本当にいい旅館(ホテル)には、感動があります。
建物・雰囲気、料理、接遇・・見た時・感じた時に、大きな感動があり、
一緒に旅をした人と喜びを感じ、一生の思い出になる。
よい感動を与えられるのは、並々ならぬ努力があります。
料理・接遇・・長年積み重ねた努力があり、
一人一人が研ぎ澄まされて職人となり、大変な努力を重ねています。
人は、「これでよし」と思ったら、その段階から成長もないですし、
マンネリ化して、感動もないですね。それはサービスも料理もそうです。
日々、出会う人は一生に一度。一瞬一瞬がその瞬間にしかないのです。
その瞬間が素晴らしいと思うのは、提供する側が、
如何にその瞬間に感動してもらえるか心を込め、努めているかです。
【お料理のこと】
当時の料理長(五十嵐忠則)は、三十年以上も料理長として料理に携わっていましたが、
毎日毎日工夫を凝らし、「美味しいものを食べさせたい、
食べて健康になってもらいたい、感動を与えたい」一心で、毎日努力を重ねていました。
その料理の味は、本当に見事で、みているこちらもいつも感動を覚えていました。
※京都の高級料亭に料理長自ら、勉強の為、何度も足を運んだそうです。
また、経営者も女将や料理長、仲居さん達を京都の名旅館に連れて行きました。
毎日努力した、一流の仕事というのは、見事ですね。
料理であれば味付け、見栄え、食材の生かし方、あつかい方、
素材の良さを最大限に引き出す技。
食材や器の知識、食から身体への影響と効果など、
料理長は毎日、何十年も努力を怠らず様々なことを研究しておりました。
※料理長は2013年に、ご高齢により引退をしております。
現在、京都にも一流の料理人がたくさんいますが、
今や日本の和食は世界からも絶賛され、フランスの一流シェフが
修行に来るほど、世界中で称賛されています。
【接遇のこと】
女将さんや仲居さんの、人それぞれに合わせたもてなしも心地いいものです。
長年の経験で、少し接しただけで、その人が最も気に入る距離感、
「間」というものを経験で察知するんですね。
女将が当時、よく言っていました。
「十人十色」一人一人、好みや求めるものが違うんです。と。
相手に合わそうとするのは、慈しみもあるからこそ。
一人一人心から大事に思うよう努めると、
それが相手にも自然と伝わり、よい関係性が築かれる。
自分より相手、という。奉仕の精神がないと駄目。
心もなく、小手先のもてなしでは、見抜かれてしまうものです。
接遇は、「また今日も同じ作業」だと思ったら、相手に伝わりますし、
形だけのサービスだと見抜かれてしまいます。
でも、今日いらっしゃる方は、今日が最後の家族の思い出になるのかもしれない・・
と思ったら、精一杯尽くしてあげようと、思います。
それが表情や雰囲気に表れ、なんとなく心地よい気持ちになります。
よく女将が、毎日そう思うように、と指針を示しておりました。
また、心地のよい空間というのは、様々な分野の職人達、
一流の人達が織りなす「気」というものが伝わるのかもしれません。
絵画でもよく言われるのが、書いた人の「気」が高いと、
見た人にもそれが伝わるのだと聞いたことがあります。
■老舗旅館の良さは、日本の伝統・文化が凝縮されている
旅館の良いところは、伝統文化の集合体であり、
一年の季節感、風土が随所に込められていること。
料理、しつらえ、着物、軸の意味、伝統行事、景観・・
建築も名工が建てたこだわりが随所に残ります。
【旅館で感じる日本の文化】
・門・打ち水・香・花・お抹茶
・着物・もてなし(接遇)
・お軸、壺や花、調度品、建材
・料理(能)・食材・器
※はしり、旬、なごり、食療法
・詩や句
・建築
・庭園
・山の草花
・虫の鳴き声
・屋号・客室名
・季節ごとの飾り・伝統行事
【旅館の良さ】は、日本の文化を知ること。
老舗旅館の良さは、日本の伝統が凝縮されているところであり、
それを良しとするお客様との共感でもあります。
こうした伝統文化が守り、受け継がれていくには、
価値を理解できないと守られません。
そして、その土地々々に残された歴史も魅力のひとつですね。
その場所に由来のある文学者や歴史に残る方々、思い出。
その土地ならではの食の文化、季節の食材。虫や草花の種類・・等々。
当時の旅館は高級旅館の名前に恥じない程、
経営者、女将、料理長、仲居さんや従事する人々が何十年と
常日頃自己研鑽し、一流の中でも特に一流と褒め称えられました。
しかし今は経営者が代わり、まったく違う形の旅館になってしまいました。
何十年と勤めた人達ばかりでしたが、今はいません。
建物は残り、営業はしているものの、歴史に終止符が打たれてしまったような状態です。
しかし、心の中には今も、これからも永遠に生き続けています。
2020.6.11 [ – sara 桜羅 – ]