書論 興芸書学入門 (第ニ回)
前回の内容から、日々の鍛錬に心掛けなければいけない事柄を
順に列記すると次のようになる。
一、執筆法
武道同様、構えは重要で、筆は人差指と薬指・親指で筆を持ち、
薬指は筆の後側を支える双鈎法と、人差指と中指で筆を持つ単鈎法がある。
前者は文字に後者は小筆に合う。
筆は軽く持ち、掌の中にピンポン玉が入る程度ゆったり持つ。
二、運筆法
・腕は肘腕(健腕)で肘を机につけないで腕をあげて書く。
・背筋は真直にし、大きな動きを容易にする。
・文字の大きさは五~六センチ角に入る位から始める。
・命毛を意識し、中鋒を心掛ける。
・蔵鋒(鋒先を見せず起筆する)を使う。
・筆の毛一本の活動を意識する。
・書きにくい文字を克服する為に双鈎塡墨(そうこうてんぼく)といって、
手本に薄い滲まぬ紙をあて、文字を籠字にとってその中を墨で埋める訓練も考えてみる。
三、文房四宝の知識と手本の選択
筆・・・原料や長さ等によりその特質を生かす。
墨・・・和墨・唐墨、さらにそれらの原料や製造年度により
変化する墨色・線の伸びを知る。
硯・・・和硯より唐硯を使用。
特に水岩と山坑の違いを知り、鋒鋩の状態を
実感する事で使用する硯を選択する。
紙・・・和紙・唐紙の区別・加工紙を使い分ける事と
その違いを自らの書にして実感し表現する。
手本・・個々に合った古典の中で、拓本を手本とする場合、
より古い時代に採られたよい手本にて学ぶ・・(臨書)
臨書から個々の芸術が生まれ、確立される事は最終目的である。
以上は簡単な説明で、細部の多くの重要な知識については後に機会を設けて
お話しすることに致します。
書の大成条件には大きく次の三つが要求される。
一、生まれつきの資質を生かす。
二、よい指導者と伝授法
三、本人の努力・工夫
作品制作において全体のバランスが必要な事は当然乍ら(ながら)、
落款(落成款識/正式名称)も重要である。
印の歴史は古く、自分の証として、信用・所有・封印に使用された。
また、印の内容により、姓名印・雅号印・字印・書斎印(室号印)・引首印・
遊印・住址印(住所)等あるが、書を完成させた後、最も作品効果の高い印を
鈐印(けんいん/印を押すこと)すべきである。
◎次に、書の指導者における過去の教室での簡単な書話をいくつか選び列記致します。
・筆力・速度の変化・骨格と肉付の均衝に思慮する。
・「外観の美」と「質実の美」が兼備されていること。
・社会生活や趣味の世界でも、名品に接し、常に眼力を養う。
・結構や気脈に対する空間の妙、墨の濃淡、潤渇のバランスを意識することにより
深淵な芸術性を体感する。
・三餘について、中国の三国時代の董遇が諭して解した言葉で、
時間にゆとりがない為読書出来ないと相談を受けた時、
冬は一年の余り、長雨は時間の余り、夜は一日の余りと三餘について語った。
・美しい手紙文は、日本では漢字かなが同時に文章に美しく表現され伝達されるが、
漢字とかなはあまり連綿(つづけない)しない方がよく、かなを連綿する時は、
一字目の終わりに二字目の書き出しが近くある場合のみにする。
例:(に~て・か~は)は連綿にすると流れが悪い。又、時に変体仮名を入れると
表情豊かにもなる。
・拓本の中には、修正を加えられているものや、時代の新しい磨滅したものがあり、
真の筆を探るのにふさわしくないものは手本としないこと。
基本筆法とその用法