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清貧の思想 / 中野幸次

本を読み、人に学び、深める。そのことが如何に大事なことであるか、

中野幸次氏の「清貧の思想」に書かれている。

氏は、日本がバブル真っ最中で世の中が浮き立っている時に、この本を書いた。

歴史的文化人の背景と思想も追及し、心構えを諭しているようである



【 清貧の思想  /  中野幸次 / まえがき】


私は話を求められる度に、いつも日本文化の一側面という話をすることに決めてきた。内容はだいたい日本の古典 ― 西行、兼好、光悦、芭蕉、池大雅、良寛 など ― を引きながら、日本には物作りとか金儲けとか、現世の富貴や栄達を追求するものばかりではなく、それ以外にひたすら心の世界を重んじる文化の伝統がある。ワーズワースの「低く暮らし、高く思う」という詩句のように、現世での生存は能うかぎり簡素にして心を風雅の世界に遊ばせることを、人間としての最も高尚な生き方とする文化の伝統があったのだ。それは今の日本と日本人を見ていては、あまり感じられないかもしれないが、私はそれこそが日本の最も誇りうる文化であると信じる。今もその伝統― 清貧を尊ぶ思想と言っていい ― は、我々の中にあって物質万能の風潮に対抗している。それは現代の日本の主たる潮流ではないからあえて「一側面」と遠慮しておくが、実は私はこれこそが日本文化の精髄だと信じているのだと、古典の詩歌を引きつつ、私の「清貧の伝統」と考えるところを話してきたのだった。

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