sara 桜羅読み物食/四季折々の特産物

天下の台所『吉兆味ばなし』

「吉兆」創業者、湯木貞一(ゆき ていいち)氏の著書
『吉兆味ばなし』から抜粋いたします。

-  今から百五十年以上も前に松江の殿様が書いた
『茶会記』を手にしました。
懐石料理の献立集でしたが、こんなに見事な日本料理の
献立があるのかと驚きました・・。何に驚いたかというと、
あふれるばかりの、にじむばかりの季節感です。
それからというもの、夜も眠れぬくらい考えたことも
ありました。無我夢中でした・・。たぶん、あの時
『茶会記』に出会っていなかったら、今の吉兆は
なかったでしょう。

-  このあいだ、千家さんで今まで食べたことのない
ものをご馳走しますということで、
とりたての生のたけのこをいただいた・・

たけのこは、煮るのもいいけど、焼くのもいいものです。
淡味で煮たのにちょっとしょう油をつけて焼きますが、
焼き上がりにたたき木の芽をたっぷりかけて・・
金アミに乗せて、こげ目がつくように焼きます。
しょう油は、日本酒を二割入れたぐらいがよろしい。
淡味をつけないで、ゆでたままをつけしょう油にちょっと
漬けてから焼くのも、たけのこの味そのままのおいしさが
味わえます。この場合のつけしょう油の割り合いは・・

こうした湯本貞一氏が書く著書の中に、様々な食材や季節の食材の活かし方、
そしてこだわり、季節に合わせた心遣い、季節ごとの茶事、心づかい、
伝記など、鮮明に記されています。
また、和食には、和食の文化、伝統、歴史、しきたり、暦、古典、
すべてが含まれています。
湯本貞一氏は、和食の料理界では神様みたい存在だといいます。
関西は昔から食が豊富であり、天下の台所といわれてきました。
また、食材の鮮度がよいことから薄味で味付けし、
まったりとした丁度よい味付けにできたといいます。
※関西でまったりとは、辛すぎず甘すぎず、という意味。

何事も、切磋琢磨されているところでは、
様々なことが磨かれていきます。
食の文化を調べると、当時の習慣や風土が地域ごとに知ることができ
とても興味深いです。[ – sara 桜羅 – ]

湯木 貞一 氏

日本料理の名料亭「吉兆」の創業者である湯木 貞一(ゆき ていいち)氏。
神戸市花隈(現・中央区花隈)の鰻料亭「中現長」の跡取り息子として誕生。
16歳になると父の下で板前の修行を始め、24歳の時、松平不昧著『茶会記』を読み、
茶道に目覚め、茶懐石を料理に取り入れ、料理の品格を高めたいという志を立てる。
30歳の時に独立し、大阪でカウンターのみの割烹料理屋「御鯛茶処 吉兆」を開いた。
これが吉兆の始まりである。36歳で念願だった茶道を本格的に習い始め、
これが縁となって財界の重鎮であり茶人でもあった小林一三、松永安左エ門、
畠山一清らと知己となり、ますます日本料理の地位向上と茶道に傾倒していくようになった。

[ – sara 桜羅 – ]

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