松尾芭蕉と松島

松尾芭蕉と言えば「おくのほそ道」が有名ですが、
松島に訪れる以前から憧れを抱き、
「松島一見のおもひやまず」と言葉を残しています。
松尾芭蕉は46才の春から秋にかけて奥羽・北陸地方の
旅に出かけ、「おくのほそ道」を執筆しますが、
芭蕉は歌枕や史跡をめぐりながら
その風土に染みついている古人の詩魂と邂逅し、
その物語ることばに耳をかたむけるのを目的として
句作に精魂を傾け尽くしました。
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ただ、あれほど松島に憧れた松尾芭蕉ですが、
松島では一句も残していません。
松島を去る際に「松島の月まづ心にかかりて」と
言葉を残していますが、感動の余り思うように句が
作れなかったという一節と、その一方で、中国の文人的姿勢
「景にあうては唖す(絶景の前では黙して語らず)」
に感化され、意識的に句を示さなかったとする見方もあります。
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松尾芭蕉は多くの先人の詩人に思いを寄せますが、
特に李白・杜甫・蘇東坡に憧れ、西行・宗祇らを理想とし、
ただひたすら歌枕の伝統を負った日本の風土の中に
自然の美を求め、漂泊の旅の中に自らを置き、
一切の功利的色彩を消し去り純粋な芸術的実践の
営みとしました。